進化の不思議な大爆発

- 第2話 -

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はじめに

カンブリア紀の海に繁栄した様々な生きもの達が繰り広げた進化の大爆発、それは、その後に生命の運命を決める重要な分かれ道でした。そして、その中のたった一つの道が私たち人間につながったのです。私たち人間は地球に生まれた生命が持っていた大きな可能性の中のたった一つの結果に過ぎないのです。第2話では、この5億3千万年前の人類につながる進化の不思議な過程を辿ってみたいと思います

プロローグ

今から5億3千万年前、恐竜の時代より遥か昔、陸には動物の姿は無く、草も木も生えていませんでした。岩と砂だけの荒涼とした大地がどこまでも続いていました。しかし海の中では、既に私達の知らない様々な生き物たちの世界が花開いていました。私たち人間や動物達の共通の祖先となる生き物も、この時代に登場しました。しかし、それだけではありません。今の動物には、つながらない奇妙で不思議な生き物達もいたのです。5億3千年前の海、それは生き物達がより良い形、より良い生き方を求めた壮大な進化の大実験場だったのです。つまり、生命がありとあらゆる形を試したデザイン・コンテストの時代があったのです。それはいわば、進化の大実験でした。その実験は一体どのようなものだったのでしょうか?

生命誕生は今から40億年前、細胞の誕生は20億年前、その10億年後には動物の出現(まだ小さくて、目に見える形ではありませんでしたが)、さらにその数億年後、約5億3千万年前のカンブリア紀に突然、様々の形を持った動物達が爆発的に現れたのでした。この動物達は一体どのような生き物だったのでしょうか?

カンブリア紀の奇妙な動物達

この時代の動物達は、生物学者の常識をはるかに超えた奇妙な生き物も数多く発見されました。このカンブリア紀の化石からの復元による生物の研究は、主にケンブリッジ大学で行われました。頭の先から象の鼻のようなパイプが伸び五つの目が頭から突き出しているのです。オパビニアという名前が付けられました。細い胴体から長く伸びた刺、どちらが前なのかもわかりません。

この生物はあまりに奇妙な形からハルキゲニアという名が付けられました。ネクトカリスは頭はエビのような形をしていますが、体は魚のようです。全く違う生物が合体したかに見える不思議な生き物です。花のような形をしたディノミスクス、でも植物ではなく動物なのです。花びらのように見える部分の内側に口と肛門が隣り合わせに付いています。口の周りに小さな歯のようなものを持つオドントグリフス「歯の生えたナゾ」という意味です。この口で何をどのようにして食べていたのでしょうか?

かつて、カンブリア紀の生物達は、単純なものばかりで種類も少ないと思われていました。しかし、ケンブリッジ大学のH・ウィッチントン博士達は、この時代の海には既に複雑な構造を持ち、様々な形をした生物達が満ち溢れていた事を明らかにしました。そして、その中には、現在の生物の分類には当てはまらない奇想天外な形をした生き物達もいました。カンブリア紀の海には、私達の想像を超えた不思議な世界が広がっていたのです!まさに、カンブリア紀は進化の大爆発だったのです。

進化の大爆発が起こった背景

カンブリア紀の不思議な生き物達は、なぜ、突然現れたのでしょうか?様々な形をした動物達、その体は無数の小さな細胞が集まって出来ています。しかし、最初の生命はたった一つの細胞で出来た単細胞生物でした。その細胞が集まり、最初の単純な動物が生まれたのは今から10億年ほど前だといわれています。地球に最初に現れた動物は、頭も足も無く形らしい形を持っていない単純な構造をした動物だったのです。しかし、その後の地球環境の変化と共に、動物も次第に進化を始めました。

7億5千万年前、地球の大陸はほとんど一つの塊に固まっていました。そして、6億年前には、大地の裂け目に海が入り込んで浅い海が大きく広がりました。浅い海には、陸から栄養分を豊富に含んだ土や砂が流れ込みます。しかも、この頃には酸素の濃度も高まり、生命は活発な行動が出来るようになってきたのです。この環境の中で、新しい進化が起こっていました。6億年前、この浅い海にはどんな動物が現れていたのでしょうか?

6億年前の動物達は、豊かな海の中で既に様々な形を持ち始めていました。しかし、素早く動き回るものはまだ少なく、水中を漂うか海の底にへばりついている者がほとんどでした。しかも体は柔らかく、種類も30種類ほどしかいませんでした。それから数千万年後のカンブリア紀に爆発的な進化が起こりました。この時代、一気に一万種類の動物が登場したのです。爆発的な進化がなぜ起きたのか?その原因は、はっきりわかっていません。

このカンブリア紀の動物達は、それ以前の時代には見られない新しい特徴があります。例えば、三葉虫は、これまでの生物には見られなかった硬い殻を持っています。ハルキゲニアは、体に不釣合いなほど、長いトゲを背中から生やしています。ウイワクシアという生物も鋭いトゲで体を被っています。これらの生き物達は、まるで恐ろしい敵から身を守ろうとしているかの様に見えます。実際このウイワクシアを襲った生物がいた証拠があります。ウイワクシアの化石の中にはトゲをへし折られているものがあるのです。硬い殻を持った三葉虫の中にも、何ものかに噛まれた痕があります。動物達は最初、周りの有機物などを食べていました。しかし、動物が増え始めたこのカンブリア紀に、生きた獲物を捕まえては食べる肉食動物が進化してきたと考えられています。

進化の大爆発のナゾに迫る

アノマロカリス、体長は最大のもので60センチ、カンブリア紀最大の生物です。体の両側には14対のヒレが付いています。アノマロカリスはヒレの一枚一枚を順番に一定のリズムに動かして泳ぎます。こうして、悠々と泳ぎながら海底を這う生き物を狙っていたのではないでしょうか。

体の横にヒレがたくさん並ぶ構造は、体の方向や位置を微妙に調節でき、正確に獲物を狙う事ができるのです。カンブリア紀の海、そこには強力な口を持ち、たくみに泳ぐアノマロカリスという恐ろしい肉食動物が現れていたのです。カンブリア紀に進化の大爆発が起きた原因の一つは、アノマロカリスのような恐ろしい肉食動物の登場だったと考えられています。

オパビニアの頭の上についた5つの目は、餌を探す為よりは、敵を発見するのに役立ったと考えられます。オパビニアは恐ろしい敵を少しでも早く発見して逃げるという方法を選びました。5つの目もその為に生まれた形でした。

そして、ハルキゲニア、ウイワクシアの選んだ形は、鋭いトゲでした。いかに上手く逃げるか?泳ぎ方も様々な方法が選ばれました。足の付け根にヒレを持ち、歩く事と泳ぐ事の両方が出来る者もいました。体をくねらせて泳ぐ方法も二つありました。体を左右に動かす方法、そして上下に動かす方法です。小さな生き物を食べる動物もより大きな肉食動物から身を守らなければなりませんでした。海底の中に身を隠すのも一つの方法でした。

身を守る為、子孫を残す為、カンブリア紀の生き物達は、生命のあらゆる可能性を試したのです。喰う、喰われるという関係の始まりが、動物達の様々な形を生み出したのです。この事が、進化の大爆発が起こった原因の一つだったのです。攻撃する為に、どんな武器を持つのか?どのようにして敵から身を守るのか?どのようにして逃げるのか?生き物達は様々なデザインを試し、そして競い合いました。アノマロカリスを始め、この時代にありとあらゆる動物達の基本的なデザインが出揃ったのです。

私達人間につながるデザインを選択したのは一体どんな生き物だったのか?

多くのデザインが出揃った中で、今では既に残っていないものもたくさんあります。この時に何を選択したかが、その後の子孫達の運命を決める事になるのです。それでは、私達人間につながるデザインを選択したのは、どんな生き物だったのでしょうか?

海の王者、アノマロカリスに追われていたであろう生き物達、その中で最も弱々しく見えるピカイヤ私達人間の祖先といわれています。ピカイヤは、身を守る為の堅い殻も、トゲも持っていませんでした。では、様々な生物が体のデザインを選択したこの時代に、ピカイヤは一体どんな選択をしたのでしょうか?(実はこのピカイヤと良く似た生物が、現在でもアメリカのフロリダに棲んでいるのです。ナメクジウオです。)ピカイヤの背中の部分を前後に貫いている棒のようなもの、脊索(せきさく)です。これがピカイヤが選んだデザインでした。いわば背骨のようなものです。ピカイヤはこの脊索を作ることによって、体をくねらせて泳いだと考えられます。

ピカイヤはその後、魚に進化し、さらに魚からカエルや山椒魚のような両生類に進化して陸上に進出しました。そして、爬虫類や哺乳類が生まれました。もし、ピカイヤが生き残る事ができずに絶滅していたら、哺乳類もそして、もちろん私達人間も生まれる事がなかったでしょう。現在の地球には様々な形をした動物が住んでいます。その内、私達が見慣れた多くの動物達は、皆共通の構造を持っています。それは、私達人間も持っている「背骨」です。この背骨という構造は、さかのぼってゆけば、ピカイヤが選んだ「脊索」にたどり着くのです。ピカイヤの脊索は、背骨を持つ全ての動物を生んだ基本デザインだったのです。

生き物達のデザイン、その自然淘汰

カンブリア紀は、今の生物につながる基本的なデザインがほとんど出揃った時代でした。カナダスピスは、外側を覆う殻で、体全体を支えるデザインを選びました。この構造は、現在のエビやカニ、昆虫に受け継がれています。一方、五つの目と象の鼻のようなパイプを持ったオパビニアは、子孫を残すことなく滅び、そのユニークな構造は生命の進化の歴史から消えてしまいました。カンブリア紀に生きた生物達は、様々なデザインを作り出しました。しかし、その多くは、受け継がれること無く、この時代だけで消えてしまったのです。

海の王者、アノマロカリスの運命はいかに?

では、カンブリア紀の海で無敵を誇った最大最強の海の王者、アノマロカリスの場合は、どうだったのでしょうか?アノマロカリスの化石が発見された場所は、カナダ、中国、オーストラリアなど広い範囲に及び、アノマロカリスが世界中で繁栄していたことを示しています。

アノマロカリスのこの繁栄の秘密は、やはりあのユニークな口だったのでしょうか。アノマロカリスの口は、我々にはない優れたデザインでした。このユニークな口で、アノマロカリスは繁栄を続けたのです。この頃、地球環境に大きな変化は有りませんでした。温暖な気候が数千万年も続き、エサとなる生物も豊富だったはずです。強力なライバルが現れたという証拠もありません。

海の王者、アノマロカリスの絶滅の原因は、未だに謎に包まれたままです。ケンブリッジ大学のH・ウィッチントン博士はこう言っています。「もし、進化をもう一度やり直したとしたら、同じ結果になるでしょうか?おそらく、そうはならないでしょう。絶滅してしまった生物も、もしかしたら、今度は生き残るかもしれません。何か偶然の要素が関わっているのです。しかし、どんな偶然の出来事が起きたのか、私たちには、わからないのです…」と

アノマロカリスの絶滅の謎が人類を誕生させた?

アノマロカリスの繁栄した時期は、2,000万年近くにも及びます。それは、私達人類ホモサピエンスの歴史の100倍にもなります。しかし、アノマロカリスのユニークな構造は、どの生物にも受け継がれること無く、地球の生命の歴史から永遠に消えてしまったのです。そして、どんな偶然が作用したのか、アノマロカリスに追われていたピカイヤは子孫を残し、やがて私達人間が生まれたのです。カンブリア紀の海に繁栄した、様々な生き物達が繰り広げた進化の大実験、それは、その後の生命の運命を決める重要な分かれ道でした。そして、その中のたった一つの道が私達人間につながったのです。私達人間は、地球に生まれた生命が持っていた大きな可能性の中の、たった一つの結果にしか過ぎないのです

生命の歴史の年譜(早わかり表)

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